大阪地方裁判所 昭和52年(モ)13034号 決定 1984年10月30日
申立人
藤原義定
申立人
藤原典子
申立人
藤原大悟
右大悟法定代理人親権者父
藤原義定
右三名訴訟代理人
中田明男
井上善雄
主文
申立人らに対し、当裁判所が昭和五二年(ワ)第六七九九号損害賠償請求事件について申立人らに付与した訴訟上の救助により支払猶予した印紙額八万五四〇〇円の支払を命ずる。
理由
一本件記録によると、申立人らは昭和五二年一一月二九日原告を申立人ら、被告を株式会社カクイチとする当裁判所昭和五二年(ワ)第六七九九号損害賠償請求事件の訴えを提起するとともに頭書訴訟救助の申立をして同年一二月二日右損害賠償請求事件について右申立人らの民事訴訟費用等に関する法律に定める手数料の納付について訴訟上の救助を与える旨の訴訟救助決定を得て右事件の訴え提起の手数料八万五四〇〇円の支払の猶予を受けたが、同五四年三月六日右事件について「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決言渡を受け、同判決は同月二四日確定したことが認められる。
二ところで、訴訟救助の制度は、資力のない者にもある者と同様に自己の権利を主張し実現するため裁判を受ける権利と機会を平等に与えることを目的としており、訴訟費用は原則として判決によつてその最終負担者が定められるものであつて、訴訟係属中に各当事者が支出する訴訟費用はいわば最終負担者確定までの暫定支払いないし立替払い的性質を有すると考えられるので、これを前提として、将来の勝訴者のために訴訟費用の暫定支払いの猶予(免除ではない。)を認め、受救助者が勝訴して相手方の訴訟費用負担が確定した場合には国等が猶予した訴訟費用を直接その相手方から取立てうることとして(民事訴訟法一二三条)、正当な権利を有しながら資力がないためにその実現の途を閉ざされる者のないようにすることをその本旨とするものである。従つて、実現すべき正当な権利を有しない者、すなわち訴訟救助を受けて裁判を受ける機会を与えられたが、その結果自己の主張する権利が認められず敗訴して訴訟費用の最終的負担者とされた受救助者は訴訟救助の制度趣旨からみてもはや訴訟救助の受給資格者たりえないものと解すべきである。このことは民事訴訟法一一八条但書に勝訴の見込みがないと認められる者は訴訟救助の付与を受けることができない旨規定されていることからも明らかである(大阪高等裁判所昭和四六年(ラ)第一四五号同四八年三月二〇日決定・判例時報七〇二号七二頁参照。)。従つて、受救助者が本案判決で全部敗訴し訴訟費用全額の負担を命ぜられこれが確定した場合には、訴訟救助の全部についてその受給資格を喪失する結果、当然に猶予を受けていた訴訟費用の全額の支払をしなければならなくなるものと解すべきである。
また、民事訴訟法一二二条は、受救助者の資力が回復しまたは当初から資力を有することが判明したことを要件として訴訟救助を取消し猶予費用の支払を命じ得る旨規定しているが、同条は制度の趣旨に照らし訴訟救助の対象となりうる者、すなわち救助決定の時点で救助の要件を満たす者または訴訟完結後でも勝訴して訴訟費用の最終負担者でないことが確定した者についての定めであつて、前述のように本案で敗訴し訴訟費用の最終負担者であることが確定した受救助者はそもそも制度の本質上当然受救助者たる資格を喪失することになるのであるから、同条の適用の範囲外であつて、訴訟救助決定が取消されるまでもなく猶予費用を支払わなければならないことになると解すべきである。敗訴確定者でも資力回復等同条所定の要件がない限り救助の効力が存続すると解することは、本来個別的な訴訟との関連で付与される訴訟救助の前述のような制度趣旨を逸脱し、かえつて不合理な結果を招くことになり妥当でない。
これを本件についてみると、さきのとおり、申立人らは前記損害賠償請求事件について全部敗訴の確定判決を受け訴訟費用全額の負担を命ぜられたのであるから、もはや訴訟救助を取消すまでもなくその受給資格を喪失し、猶予されていた訴訟費用全額すなわち訴え提起の手数料(訴状貼用印紙額)八万五四〇〇円を支払わなければならない。
よつて、主文のとおり決定する。
(吉田秀文 加藤新太郎 五十嵐常之)